東京地方裁判所 昭和62年(ワ)10132号 判決 1988年12月21日
原告 株式会社オリエントファイナンス
右代表者代表取締役 阿部喜夫
右訴訟代理人弁護士 菅原光夫
被告 八光産業株式会社
右代表者代表取締役 田中進
右訴訟代理人弁護士 高橋剛
主文
1. 原告の請求を棄却する。
2. 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、請求の趣旨
1. 被告は、原告に対し、金五六〇〇万円及びこれに対する昭和六二年八月二一日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。
2. 訴訟費用は被告の負担とする。
3. 仮執行の宣言。
二、請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨。
第二、当事者の主張
一、請求の原因
1. 原告は、金融を目的とする会社であり、被告は、ゴム製品、機械工業製品の販売を目的とする会社である。
2. 原告は、被告との間に、昭和六〇年七月二五日、原告が被告からタイヤ振れ検査機(型式BMC〇〇二、製造番号A-六〇〇七八三二、以下「本件物件」という。)を代金五六〇〇万円で、左記約定にて買い受ける旨の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結した。
イ 代金支払方法 同年八月二〇日に原告振出の約束手形(額面五六〇〇万円、支払期日同年一一月二〇日)を被告に交付する。
ロ 目的物引渡時期 同年七月三一日
ハ 引渡場所 兵庫県伊丹市森本七丁目一八番地 信栄工業株式会社(以下「訴外会社」という。)
ニ 特約 本件物件について、原告から借主と目された相手方、すなわち、訴外会社が原告との間でリース契約の締結又は検収を実施しないときは、原告は、無条件で本件売買契約を解除することができる。
3. かくして、原告は、右同日、訴外会社との間で本件物件のリース契約を締結し、他方、被告に対し、前記約定に従って、売買代金を支払った。
4.(一) しかるに、本件物件は当初より被告のもとに存在せず、したがって、原告と訴外会社間のリース契約は存在しない物件を目的とするものであるから無効であり、また、もともと訴外会社の所有物として同社に存在していた物件を本件物件として検収させたものであるから、検収自体も不存在である。
(二) そこで、原告は、被告に対し、前記特約に基づき本件売買契約を解除する旨意思表示し、右意思表示は、昭和六二年四月一〇日被告に到達した。
5.(一) 原告は、被告に対し、昭和六三年二月一七日、本件物件を同月二三日までに引き渡すよう催告すると同時に、右日時までに引き渡さないときは、本件売買契約を解除する旨意思表示し、右意思表示は、昭和六三年二月一七日被告に到達した。
(二) しかるに、被告は、右日時が経過するも、本件物件を引き渡さない。
6. そこで原告は、被告に対し、解除に基づく現状回復として、五六〇〇万円とこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和六二年八月二一日から支払済みに至るまでの商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を支払うよう求める。
二、請求の原因に対する認否
1. 請求の原因1ないし3は認める。
2. 同4の(一)のうち、本件物件が当初から被告のもとに存在しなかったこと、本件物件がもともと訴外会社の所有物として同社のもとに存在していたことは認める、その余は否認する。
同4の(二)は認める。
3. 同5は認める。
ただし、被告は、原告に対し、昭和六〇年七月二五日、本件物件を指図による占有移転の方法で引き渡している。
4. 同6は争う。
訴外会社がその所有する本件物件の占有を継続したまま金融を受けるため、訴外会社、原告及び被告の三者了解のうえ、リースバック契約を締結することとし、訴外会社が被告に本件物件を売り渡し、そして原告がこれを被告から買い受けて、訴外会社に対しリースするという形式をとったものである。
第三、証拠<省略>
理由
一、請求の原因1ないし3、4の(二)及び5の各事実並びに4の(一)のうち、本件物件がもともと訴外会社の所有であり、被告のもとには存在していなかったことは、いずれも当事者間に争いがない。
二、右争いのない事実に、<証拠>によれば、
1. 訴外会社は、昭和六〇年六月ころ、経営が苦しかったため、その製造にかかる本件物件を利用して他から金融を受けるべく、被告大阪支店の大谷次長に本件物件でリースができないものかと相談したところ、大谷は、適当な会社を紹介する旨約し、そして、被告との間で既にリース取引をしていた原告の大阪堂島支店に本件物件をリースしたいという訴外会社がある旨連絡したこと、
2. そこで、原告の社員庄司修平は、そのころ訴外会社を訪ね、訴外会社の代表取締役の徳永吉久と面談し、同社の決算書等の交付を受けるなどして、同社の信用状態を調査したうえ本社の決済を得て、同年七月二五日、まず被告との間で本件物件を代金五六〇〇万円で買い受ける旨の原告主張の特約のある本件売買契約を締結し、同時に訴外会社との間で本件物件のリース契約も締結し(リース料総額七四一六万円、同日から昭和六六年七月まで毎月二五日に一〇三万円宛支払う約)、そして庄司は、訴外会社にあった本件物件の存在を確認して、検収確認書を作成したが、この間、徳永は、庄司に対し、本件物件がそもそも訴外会社の所有するものであるといった事情は一切話していないこと、
3. かくして、原告は、同年八月二〇日、被告に対し、売買代金の支払のため額面五六〇〇万円の約束手形(支払期日同年一一月二〇日)を振出交付し、右手形は満期日に決済されて、訴外会社は、その内から五〇〇〇万円を超える金員を得、そして所定のリース料を原告に支払ってきたが、本件物件を同年一一月ころに他に転売してしまい、更には昭和六一年九月不渡り手形を出して倒産したこと(その後、和議申請をして、債権の七〇パーセントはカットし、三〇パーセントを昭和六三年一〇月を第一回として一〇年で返済するという和議条件が認可され、原告も本件のリース料債権を届け出ている。)、
以上のような事実が認められる。右認定に反する記載(当初からリース物件は存在しなかったという趣旨の記載)のある甲第九号証はあるが、これは、証人徳永吉久の証言によれば、要するに、本件物件の物理的な不存在をいうのではなく、リースの対象としての物件は存在しなかったということを観念的に表現したにすぎないことが認められるから、同号証の存在は右認定を左右するものとはいえず、他に右認定に反する証拠はない。
右事実によれば、確かに、本件物件はもともと訴外会社の所有で、被告がこれを所有し、かつ現実に占有していたことも全くないが、このことによって原告と訴外会社間のリース契約が存在しない物件を対象とする無効な契約であったとは解せられない。原告と被告間の本件売買契約は、仮にその契約前に訴外会社から被告に本件物件の所有権が移転していなかったとしても、それは、他人の物の売買ということができ、しかも訴外会社もこれを是認したうえで、原告とリース契約を締結している以上、原告は、被告との売買によって有効に本件物件の所有権を取得しているといえ、したがって、右リース契約も存在しない物件を対象としたものとは到底いえないからである。
また、検収がなかったとか、あるいは本件物件の引渡しがなかったと原告は主張するが、右事実によれば、本件リース契約締結の時点で、いずれにせよ本件物件が訴外会社に存在していたのだから、この主張も採用できない。
したがって、原告の主張する右事由のみでは、リース契約を無効とすることはできず、その他本件売買契約の解除原因となるともいえない。
三、そうだとすると、原告の本訴請求は理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 大澤巖)